鯉淵 滋 / 代表取締役 / 東京プライベートオフィス株式会社

北海道出身、東京都立大学工学部を卒業後、旭硝子(現AGC)株式会社に新卒入社。住友不動産販売、プルデンシャル生命の営業などを経て2015年に東京プライベートオフィス株式会社を設立。同代表に就任。不動産売買をはじめ、資産運用や教育に至るまで、真に顧客に信頼されるプライベートバンクの確立を目指す。

東京プライベートオフィス株式会社:https://tokyoprivate.co.jp/


高校一年生の夏に父親に反発して家を飛び出し、大学卒業まで自分で学費を工面してきた鯉淵さん。自身に厳しく内剛外柔で徹底的に突き詰めて考える性格は、もともとが武家の家柄が影響しているからかも、と笑いながら話してくれました。「人生に意味はあるのか?」という究極の問いに悩んでいた時に、出会った書籍を伺いました。


当時の状況を教えていただけますか?

私が旭硝子に務めていた時でした。旭硝子には「うちで働かないか」と誘っていただき入社し、あっ、でも請われた割には学校推薦枠ではなく一般枠で鬼のような面接がありましたが(笑)入社後の配属先は、現場があり技術や開発の中枢も見れるという、これ以上ない好環境でした。

仕事に対して、真摯に向き合っていましたし、客観的に仕事の処理能力は悪くなかったと思います。

しかし、技術の面で言えば、全く歯が立たない状態でした。上長が旭硝子屈指の技術者であり、求められる技術や理論のレベルは非常に高く、工学部の出身ではあるものの大学院で専門知識を学んでいない私にとっては、厳しい環境にありました。仕事をしながら大学院に通うか、技術を極めるのはやめて経営の道へ直進するか悩んでいました。

また、プライベートでも結婚しようと思っていた恋人と破局したり、父親を看取ったり、父が気にかけていた弟や妹の就職や進学もきちんと決まったりなどで、生物として役割を終えたような感じがありました。

その時に、どんなことを考えていたのですか?

「人生に生きる意味はあるのか?」ということを真剣に考えていました。「生きるべきか死ぬべきか」この問いに「YES」か「NO」の答えを出そうと思っていました。

今思うと、なぜそんなに悩んでいたんだろうと思わなくもありませんが、現実としてとても深く病み、悩んでいました。

「人生は利益なき多忙」なのではないか?これから生きていれば楽しいこともある、でも辛いこともきっとたくさんある。それらを合計すると収支としてはトントンではないか?今は、やり切った感もあるし、人生も累積黒字だし、今が撤退の好機ではないか?そんなことを考えていました。

そして、心理学系や医療系、哲学関連と、本当に多種多様な本を読みました。そんな本を読む中で出会ったのがこの本です。

どんな影響を受けたのでしょうか?

結論からいうと、著者の養老孟司さんにガツンと説教を受けた気分でした。

頭でっかちで悩んでいたことへの説教でした。

「人生に生きる意味はあるのか?」という問いかけは、問うているようで実は「あるかないか」ではなく、「意味があると言ってくれ!」と叫んでいることにも気付きました。

シリアスに悩む哲学者みたいなイメージだったのですが実はただのお子ちゃまでした。ホントお恥ずかしい限りです(笑)

「人生に生きる意味はあるのか?」という問いについて、答えが出たとしても実証実験はできません。論証だけです。なのでゲーデルの不完全性定理(完璧な理論、つまり、無矛盾な理論は、自身の中に矛盾がないことを保証しない)が適用されます。仮に答えにたどり着いたとしてもそれが正解かどうかは終に分からないということです。

また、答えが出たとして、それは「分かった」という状態ですよね。この「分かる」とはどういうことでしょうか。「分かる」というのは「感情」である。そんなことも説明してくれました。ある特定の条件がそろった時、人間には「分かった」という「感情」が「生じてしまい」ます。それは、本当に分かったのか、分かった「つもり」なのか「分からない」ということを示唆しています。

こんな感じで、不出来な私に、いいかね鯉淵くん、と養老先生がひとつひとつを諭していくような本でした。お子ちゃまであることに気付き、恥ずかしく赤面している私は、うつむきながらうんうんとうなづいている(笑)

読後の感想は、まず、「探している答えなど無かった」次いで「答えは無いからこそ、自分がどう生きるかが問われている」というものでした。

そして、そうやって考えている自分(意識)というものも、脳が脳という臓器を維持するための生理活動の一部に過ぎない。だからまぁ、深刻に悩んだって自分(意識)なんてしょせんそんなもの。人生は歩く陰にすぎない、しょせん三文役者、気楽にやりなさい。そんなメッセージも受けました。

その書籍のタイトルを教えていただけますか?

『唯脳論』

です。病理学博士であり、執筆家でもある養老孟司さんの著作です。この本が水先案内人となり、他にも色々な書籍を読むきっかけとなりました。

どんな方にオススメでしょうか?

真剣に悩んでいる人は読んでみるといいと思います。生きるべきか死ぬべきか。

また、物事を深く考え過ぎて悩んでしまう方にもオススメします。どうせ深く考えるならとことん深く考えた方が、そこから自由になれるからです。

唯脳論は、脳や意識のことを述べていますが、脳や理論中心に対するアンチテーゼでもあります。そこに答えは無い。答えはフィールド(実人生)の中にある。考えてばかりいないで実人生をきちんと歩んでいこう!そう思わせてくれる一冊です。

ただちょっと唯脳論は難しいと言われることが多いので、段階を踏んだ読書が良いかもしれません。

インタビューを終えて

「生きるべきか、死ぬべきか」という問いに真剣に向き合い、緻密に論理を展開して答えを出そうとする姿勢は、きっと鯉淵さんの仕事への姿勢にも反映されているのだろうと思いました。深く豊富な知識を持った鯉淵さんのような方に、自分の資産を任せたい!と思える時間でした。(私が資産を持つのはいつになることか不明ですが。。) 

<インタビュー・文責:中野修二@shu2Nack


<書籍紹介>

唯脳論

  • 著者名:養老孟司
  • 出版社名:筑摩書房
  • 定価:本体1600円+税
  • 発行年月: 1998年10月8日
  • 頁数:288ページ
  • ISBN:4-480-08439-8

文化や伝統、社会制度はもちろん、言語、意識、そして心…あらゆるヒトの営みは脳に由来する。「情報」を縁とし、おびただしい「人工物」に囲まれた現代人は、いわば脳の中に住む―脳の法則性という観点からヒトの活動を捉え直し、現代社会を「脳化社会」と喝破。さらに、脳化とともに抑圧されてきた身体、禁忌としての「脳の身体性」に説き及ぶ。発表されるや各界に波紋を投げ、一連の脳ブームの端緒を拓いたスリリングな論考。

<出典:筑摩書房>